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痛みの医療への社会的責任をはたすための認定特定非営利活動法人 「いたみラボ」

いたみについて|やわらげる

腰痛を和らげる
■腰痛を和らげる

【腰痛の原因と治療の目的】
○最も重要なのは、診断です。

 腰痛の原因の中で、注意すべき代表疾患して、脊椎圧迫骨折、腫瘍性疾患、感染性疾患などが挙げられます。これらの病態は、早く治療に取り組まないと、脊髄損傷による下半身の麻痺や、生命の危険に関わることがあるので、早期診断・早期治療が必要とされます。いつもと違う腰痛を感じた場合は、しっかり検査をうけましょう。
 次に、腰痛を引き起こす原因について考えてみましょう。腰痛は、骨折・感染症・腫瘍など注意すべき疾患を見つける際の重要な症状(サイン)の一つでありますが、骨や関節、椎間板の変形・損傷といった問題により原因がはっきりとしていることは少なく、腰痛の85%は、原因をはっきりと特定できない腰痛「非特異的腰痛」であることが分かってきました。
非特異的腰痛
 一般的に腰痛の原因というと椎間板ヘルニアが考えられがちでしたが、実際には全体の2-3%程度でそれほど多くないことが分かっています。また椎間板ヘルニアの約90%は免疫細胞のマクロファージなどの働きにより自然治癒が期待されこともわかってきました。(ただし、排尿障害、排便障害、下肢のしびれ・力の入りにくさなどの神経症状がある場合、病院での早めの治療が必要になることがあります。)

【急性腰痛】
 腰痛には大きく分けて、急に激しい症状の出る「急性腰痛」と、症状は緩慢だけれども長期間にわたる「慢性腰痛」があります。いわゆる「ぎっくり腰」などは急性腰痛に入ります。急性腰痛にも、実際に体の組織が損傷して起こる(骨折などのような)ものと、そうでない(原因が特定できない)ものがあります。高齢の女性の方の場合は、「ぎっくり腰」でも、脊椎圧迫骨折を生じている可能性が高くなりますので、しっかり病院で検査をうけましょう。
 一般に、ぎっくり腰などの急性腰痛(原因が特定できないもの)になったときは、じっと安静にしているのではなくて、あまり腰に負担をかけない姿勢を心がけて、できる範囲で日常生活を送るほうが、治りが早いことが分かってきました。ただし、痛みが強いときには無理をする必要はありません。ヨーロッパやアメリカの研究及び急性腰痛ガイドライン[1][2]でも、「安静にしているよりも、できる範囲で日常生活を送った人の方が、仕事に早く復帰できる」ことが明らかにされてきています。

【慢性腰痛】
 3か月以上(あるいは6か月)にわたって腰の痛みが続く状態を「慢性腰痛」といいます。非特異的な慢性腰痛では、心理・社会的要因(ストレス)が強く関係している場合が非常に多く存在します。何らかのストレスがある場合、ストレスによって痛みを抑えるシステム(本来人や動物に備わっているもの)がうまく機能しない状況に陥っている場合があります。ストレスから目をそらして、体の治療ばかり試しても期待通りの結果がなかなか得られません。
 ストレスが原因となっている腰痛の人は痛みに対して間違った考え方を持っている場合がしばしば見られます。従って、痛みに対する認知を変えて、痛みにとらわれない考え方を身につけることが大切です。
 このような非特異的な慢性腰痛に対して最もエビデンス(科学的根拠)のある治療法は「認知行動療法」と「運動療法」です。特にこれらを併用した場合と手術による固定術を行った場合とを比較すると、2年後の治療効果が同じだったという海外の報告[3]もあります。また、慢性非特異的腰痛管理ヨーロピアンガイドラインにおいても「運動療法」と「認知行動療法」が有効であるとされています。一方、長期的な薬物療法や何度も繰り返されるようなブロック療法は推奨されていません。

【参考文献】
[1] A. Malmivaara,et al., The treatment of acute low back pain ?bed rest, exercises, or ordinary activity?, The New England Journal of Medicine, vol. 332, no. 6, pp. 351-355, 1995.
[2] Royal College of General Practitioners, The Back Book, Stationery Office Books, 2002.
[3] Airaksinen O. et al., European guidelines for the management of chronic nonspecific low back pain, Eur Spine J, 15, Suppl 2:S192-300, 2006.

【参考図書】
紺野愼一 著「あなたの腰痛が治りにくい本当の理由」

【参考Web】
日本経済新聞「腰痛にストレス関与 安静、有効と限らず」

慢性痛に対する理学療法・運動療法
■慢性痛に対する理学療法・運動療法
慢性痛(特に筋骨格系)に対する理学療法の原則(例外もあります)としては、
 ○ 運動すること(筋肉を使って体を動かすこと)は良いこと
 ○ 運動をしないこと(筋肉や体の一部を不活動にすること)は悪いこと
という考え方です(但し過度なトレーニングは注意が必要です)。

具体的には、
 ① ストレッチやマッサージで筋肉をやわらかくする
 ② 動けるようにする
 ③ 筋力トレーニング、体力づくりを行う
といった流れで行います。

 ストレッチ・マッサージの目的としては、深部へのマッサージを通じて局所の血流増大をはかる、末梢から中枢へ向けたマッサージによりリンパ液の灌流増加をはかる、筋筋膜の緊張をほぐし動かしやすいコンディションにすることです。その後、身体を動かすことによって筋力や関節機能、また体力の向上を目指します。

次に、簡単な運動療法としてはウォーキングがお勧めします。
その際に、以下のことについて自分の歩き方について確認しましょう。

○つま先の方向を正す:つま先(人差し指)を進行方向に対して真っすぐ向ける。
○おへその下(腹筋)に力を入れる。
○おへその下にきゅっと力を入れて姿勢を良くする。
○肩甲骨をよせる:特に猫背の人は肩甲骨を意識してよせてみましょう。こうすることでいつもより肩がしっかり動くようになります。
○膝をゆるめない:体重が乗っている間や着地の時に膝をゆるめないようにしましょう。膝をゆるめることで大腿筋の動きが抑えられてしまいます。
○腕は軽く振る:腕は大振りせずに軽く振るようにしましょう。振るよりも後ろに引くイメージで行いましょう。
○骨盤を立てる。
○かかとから着地する:一定の歩幅を保ちながらしっかりと踵から着地します。

 1日のウォーキングの時間としては1回20分以上を目安にしますが、最初は無理のない範囲で行いましょう。回数をこなすよりも続けて行うことが大切です。できるだけ毎日継続して行うようにしましょう。また運動のできる人は1日2回を目指しましょう。連続して歩くのが大変な人は何回かに分けて構いませんので合計20分を目標にしましょう。痛みがひどいときは無理をしないようにしましょう。

 ウォーキングには基礎体力・筋力の向上とともに、「脳を鍛える」という効果があります。脳を鍛える運動を行うことで、慢性的な痛みにより阻害されていた痛みをブロックする機能(下行性疼痛抑制系)を本来の状態に戻し、痛みを感じにくくする作用があります。また自身の気分の向上にも繋がります。ウォーキングを行う際に大切なこととして、運動だけに集中して行うことをお勧めします。ウォーキング以外にはラジオ体操なども慢性痛予防・対策として効果的です。

慢性痛に対する運動の「ページング」法
■慢性痛に対する運動の「ページング」法
 慢性的に痛みを持つ患者さんの多くは、痛みがあるときはなるべく動かないようにするくせがついています。また、運動療法を指導されている場合、痛みが治まっている間に動き過ぎて、さらに強い痛みが出てしまうということも少なくありません。
 このような繰り返しで、患者さんは不安感や失望感を感じ、「なるべく動かない方が良い」などといった誤った考えを持つようになります。
 しかし、このような痛みの変動は誰しも経験することです。適切な運動量や痛みへの対処方法を自分自身で考え、身に着けていくことが必要なのです。

原因不明の慢性痛の場合、痛いからと言って、過度の安静は体にとって良いことではありません!!

 まずはあなたが動くことから始めます。どのようなケースでも、工夫をすることで痛みがあまり強くならないように活動量を増やすことはできるのです。当然、健康な人より動きが遅いかもしれないですし、中にはできないこともあるかもしれませんが、最初はそれを受け入れることが重要です。

具体的には、下記のような方法で行っていきます。

① まず、今のあなたが課題(目標)とする活動や運動を決めましょう。次に、その活動を痛みなく快適に達成できる方法を考えましょう。決して、他人や以前の自分と比べてはいけません。人それぞれできることは違いますし、今の自分は過去の自分とは別人と考えましょう。

② その活動(運動)を始めるにあたり、今の自分の状態を確認しましょう。もし課題をウォーキングとしたら、痛みなく何分くらい歩けるか、どのくらいの速さで歩けるか、などを把握します。

③ 一度に活動(運動)量を上げようとせず、まずは低いレベルから始めることが成功の鍵です。一定の割合で活動(運動)量を上げる計画を立てます。そして、痛みの良い・悪いに関わらず、はじめに立てた計画を守って実行しましょう。

④ 計画を頭の中だけで留めておこうとすると忘れてしまったり、混乱を招いたりする原因となります。そのために計画や毎日の経過はノートなどに書き出しましょう。課題を達成できた時には自分にご褒美をあげて、できたことに対する自信を持つように心がけましょう。